「筋がいいよ。」ベテランの職人が口を揃えて認める最も若いデッチ。
伊澤次郎は現在23歳。当工房で一番若い職人見習いである。
昔から職人、中でも鞄職人になりたかっとというから、夢の一歩を踏み出していると言えるだろう。そんな将来有望のデッチ伊澤の素顔を紹介する事で、日本の匠の技を引き継ぐ若手職人の姿を少しでも伝えられたらと思う。

担当(以下担):忙しいところ、ごめんね。
伊澤(以下伊):いや、大丈夫スよ。

担:まず、カバン職人になろうと思った理由から聞かせてくれるかな。
伊:いや、何となくなんスけど、ずっとカバン職人になりたかったんスよ。
担:ここに入社する前から、カバンづくりの道具を自分で持ってたって聞いたんだけど、本当?
伊:ええ、自分でカバンを作ってみようと思ってたんスけど、そう思っていたときに鞄工房土屋の職人の募集があったんスよ。

鞄工房土屋には、製造部・販売部の2つのチームがある。そのどちらにも、やはりデッチ伊澤のように、モノ作りが好き・鞄が好きな人間が集まって来ている。言う間でもないが、伊澤もそのキラキラとまっすぐな目から伝わるように、鞄作りに魅了されている筆頭である。

担:憧れの職人の道へ踏み出して、5ヵ月になるけれど仕事はどう?イメージと違うなんて事はないかな?
伊:そうスね・・・睡眠時間は短くなりました(笑)。やっとここの生活リズムに体が慣れてきた感じスね。家も越してきて、最近は楽になりました。
担:作業の方は、大変じゃない?
伊:そうスねえ、大変は大変なんスけど、それ以上に楽しくて仕方がないんスよ。基本的に、モノをつくることが大好きなんで。自分が持っていなかった。
道具はいっぱいありますし、自己流で覚えようとしていたことは、ベテランの方や先輩たちがきちんと丁寧に教えてくれますし。例えば包丁なんか研い。
だことなかったスから、覚えられると思うとワクワクしますよ。
担:早くやって見たい作業ってある?
伊:包丁を上手く使えるようになりたいっス。

包丁は、職人の命のような道具である。この道具を上手く使えるようになりたいと言うところに、伊澤の将来性を感じる。今は、下仕事を覚え手順を覚え、同じ作業をくり返す日々だ。だが、ベテランの職人はこの繰り返しを行なってきた。多分、今よりも厳しいデッチ時代であったに違いない。職人は、芸術家ではない。もちろん、芸術的な技を持つ部分で言えば芸術家であるが、毎日が創作という訳ではない。その技術を持って、正確に品質の高い鞄を作り続ける、変わらずに作り続ける事が職人の時間なのである。


山岸のアドバイスを仰ぐ伊澤

作業中は常に真剣な表情の伊澤

最近は徐々に効率もよくなってきた

担:職人としての、将来のビジョンを教えて欲しいな。
伊:ううう・・・ん。オリジナルっす。完全オリジナルのバッグをひとつ設計して、作ってみたいですね。どこにもないオリジナルバッグを作り出して、作り続けていきたいっス。
担:オリジナルか。そうだね、他にはない伊澤次郎の鞄が、世の中の人々に使われたら嬉しいよね。

伊:うれしいっスね。早く見てみたいな。
担:この間、青山を歩いていたら鞄工房土屋のダレスバッグを持っている人を見たんだ!すっごく嬉しくてね、声かけようかと思ったよ、「土屋鞄どうですか?」って。(笑)
伊:いいっスね!!僕なら、話しかけてたなっ!(笑)

担:ところで、突然仕事と全然関係ないけど、好きなものとか趣味は?
伊:趣味スか?そうスね、カバン作り以外でしたらサッカーが大好きスね。小・中学校とやってました。音楽はソウル・ミュージックなんかが好きスねえ。
担:おお、うちの工房は、鞄好きとソウル好きが集まってるね。事務所は、いつもソウルが流れているよね。(昔の渋いやつが)
伊:そう言えば、そうっスね。ソウルとミシンの音って合いますね。(笑)

担:忙しい所いろいろと聞かせてくれてありがとう。
伊:こちらこそ、ありがとうございます。



筋のよさは皆が認める。後は経験だ。
黙々と作業を続ける職人を気にしながら、小走りで作業の輪にもどる伊澤の背中に、将来の日本の匠の姿を思い浮かべる事ができた。
まだまだ、これから。長い修行時代が続くが、日々が進歩の毎日を彼が充実した姿勢で過ごしてくれることを期待している。いや、そのまっすぐで活き活きした眼差しを見ていればなんの不安もない。彼が、鞄工房土屋の、また日本の鞄職人の技を受け継いでいく日はそう遠くはないだろう。
掲載日 2004.2.14